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2025年デザインはもう融けた。

年末年始に、知人デザイナーたちと話して盛り上がった内容をまとめてみる。この記事は2016年に発売された「融けるデザイン」のアンサーnote。

融けた時代のデザイン戦略

融けるデザイン』が発売されてから10年弱。いま2025年を迎え、「デザインはもう融けた」と感じる。

当時は「デザイナー= 見た目をキレイにしてくれる人」というイメージが圧倒的に強かったので、僕もデザイン組織の作り方体験の重要性を発信してきた。

ただ、最近は周りを見渡すと、経営者やプロダクトマネージャーやBizDev、エンジニアたちまで「どうしたらユーザー体験を最高にできるだろう?」と考えているし、デザインを軽視する人はもう少ない。

たとえば、IoT家電を作るときにデザイナーがハードウェアだけ考える仕事がピンとこないのは、ユーザーにとってはハードの見た目だけではなく「アプリの操作感」や「クラウドに連動したサービス体験」の方が大事だったりする。自然とハード×ソフト×ビジネスモデルまで含めて「どう作るか」を一気通貫で考える流れになっている。

僕が最近よく感じるのは、この“融けた時代”にUIやビジュアルだけを担当して、数字(P/L)や事業に責任を持たないままだと、いずれ意思決定権や裁量に限界がきてしまうこと。

たとえば「リストのレイアウトを変えました」「ボタンを大きくしました」だけでは事業インパクトは薄く「どうやってユーザーの課題を解決するか」を突き詰めるほうが事業貢献につながる

P/Lを意識すると、デザインが単なる表面的な調整ではなくなるから責任範囲も広がっていく。


「融けるデザイン」はどう生まれたのか

振り返ると、テクノロジーの進化とビジネスモデルの変化が大きい。

  1. IoTやクラウドの普及
    ハードとソフトが連動するのが当たり前になった。ハードウェアをリリースして終わりではなく、ソフトウェアのアップデートが常に入るようになった。

  2. サブスクやSaaSの当たり前化
    サービスを継続して使ってもらうためには、使いやすいUIだけでなく、料金形態やサポート、データ分析までちゃんと考える必要がある。

  3. DX化における事業ドメイン理解の重要性
    あらゆる業界がデジタルシフトを急ぐ中で、単にUIを整えるだけじゃ通用しなくなってきた。それぞれの業種には独自のルールや慣習があるから、まずはそのドメインを深く理解する必要がある。医療や金融、教育など、領域ごとに押さえるべきポイントがまったく異なるため、そこを踏まえて、ユーザーと組織の両方が納得する形にしないとDXが進まない。

  4. デザイン思考(Design Thinking)の波
    「ユーザー目線でイノベーションを起こす」という考え方がビジネス側にも広がった。経営者やPMが「デザインは見た目だけじゃないんだ」と理解し始めた。

こうした流れによって、ビジネス戦略からソフトウェアまで一気通貫でユーザー体験を考える必然性が生まれ、デザイナーが“全方位”で活躍できる下地が整った。

それこそが「融けた」状態だと思う。



BizDevやPMもユーザー体験を考える時代

BizDevとのコラボレーションを意識

BizDevは“ビジネスネタを次々に創り出す人たち”で、アライアンス先を探したり、ビジネスモデル拡張などにデザイナーが入り込むと、面白い化学反応が起きる。アイディアのプロトタイプを素早く作って「ユーザーはこれ欲しがる?」「触ってみてやっぱ違う」など、議論しながら体験の検証ができる。

BizDevと組んで仕事をすると、「このアイデアは今やるべき?」「お金になるの?」というビジネス視点の質問が飛んでくる。

でも、そのやり取りから『投資回収の考え方や、売上・コスト感覚がないとダメだな』と思わされるし、デザイナーが事業の仕組みごとデザインする発想になっていったのは大きな収穫だった。

PMとデザイナーのパートナーシップ

PMは製品やサービスの仕様を決めたり、KPIを管理する役割。昔は「PMが仕様を作る→デザイナーがUIを作る」みたいな縦割りが多かった。でも今はもっと対等で、一緒に「この機能ってホントに必要?」「優先度はどのくらい?」を最初から考えるようになった。

すると、UXもビジネス面も両方にメリットがある新しい機能が生まれやすい。

さらに、デザイナーがP/L(損益)にも責任を負う、すなわち「この改善は売上にどう影響する?」を考えるようになると、“見た目”だけじゃなく“意思決定”そのものまで踏み込めると思う。


デザイナーがP/Lを気にしないのは、もったいない

この記事の核心だと思うけど「デザイナーが数字や事業に踏み込むと、デザインの影響力は一気に大きくなる」。自らP/L責任を負う覚悟があれば、企業にとってデザインはコストではなく、成長のドライバーになる。

一方で「私はデザイナーなので数字はBiz側で考えてください」スタンスだと経営や事業の意思決定が必要な時に絡めなくなって「どこかで意思決定裁量の限界」が来る時があると思う。

UIデザインの話だけではなく、「そもそもこの機能要る?」「レコメンド機能はこういう新たな価値提供もできるし、データコストも食うから全員向けではなく、アドバンスの料金プランを作って本当に必要な人にだけ機能提供したら使いやすいんじゃない?」といったビジネスモデルの土台作りまで提案できるようになる。

自然と「どうすれば費用対効果が最大化する?」「長期的に売上やリテンションが伸びる?」って視点が入ってくる。

つまり、「これが理想のUXです」だけだと通じないし、実現可能性の考慮や数字を追う厳しさもあるけど、その分やりがいが凄まじい。

ユーザーが本当に求めている体験を提供できれば、自然と売上や継続率も伸びるわけだし、デザイナーが数字を見るとリリース後の改善ピッチも上がる。

CXOからCPOに変わった心境の変化

僕自身はdelyに入社時の役割はCXOChief Experience Officer)だったけど、今はCPO(Chief Product Officer)を担っている。

以前は理想的なユーザー体験の追求に特化していたが、数字責任を持つことで「デザインとアウトカムはセット」だと強く認識するようになった。

コア体験を徹底的に磨いたり、PoC段階では機能を極限まで絞ってニーズ調査を優先する。骨格や表層への投資は次のフェーズへ回す一方、デザイン負債が将来のリスクにならないよう今のうちに手を打つ

そうした実現可能性の考慮と事業成長を見据えたロードマップを意識するようになった。


35歳デザイナー定年説

世間では「35歳を超えると現場プレイヤーとしては定年」なんて言われることがあるけど、デザインが融けた時代において、35歳以上のデザイナーが目指すべき姿がハッキリしてきたように思う。

シニアデザイナーが経営やBIZ領域にも踏み込む
「UIをちょっとキレイにする人」では終わらず、P/Lや組織戦略を理解し、経営判断に関わっていく。

デザイン組織が直接事業貢献する事例が増えている
実際、デザイナー出身のCPOや事業責任者の話をよく耳にするようになりました。

僕はCPOとして仕事をしているけど、キャリアを振り返ると「デザインは大きな武器だな」と感じるし、デザイナー独自の視点で「必要なケイパビリティは何か」を考え、組織全体で課題を解決する。これが“デザインが溶け込んだ状態”をさらに加速させると思う。

シニアデザイナーこそ、「UIちょっときれいにする人」で終わらず、P/Lにもコミットして経営判断に影響を与えられるデザイナーが増えれば増えるほど、日本のスタートアップや産業全体が“デザインが溶け込んだ状態”へと加速していくはず。

ここ最近は、デザイナー出身のCPOや事業責任者が増えたり、デザイン組織が直接的な事業貢献に取り組んでいる話題が増えてきたように思う。


まだデザイナーが「軽視されている」と感じる時

とはいえ、「デザインが融けた」とはいっても、「ないがしろにされているのでは?」と感じるデザイナーもいると思う。

ただ多くの場合、それは人手不足や組織の信頼関係が未成熟で、「人手不足で品質が上げられない」「デザイナーとの信頼関係がまだ構築できていない」など、必ずしもデザインが軽視されているわけではないことが多い。

近年はデザインを作り込まずにPoCを実施することも増えたし、それも投資判断の一環で、「このフェーズでは表層のデザインプロセスにリソースを割かない」意図がある場合も多い。

それらの際、視野を狭めずにデザイナーも組織課題や戦略議論などオーバラップしたコミュニケーションをしていくことで、デザインを融かした先が見えてくると思う。


融けた時代に必要な「職種の垣根をなくす」行動

僕もデザイナー同士で「デザインシステム論」や「このプロトタイピングツール便利」と語るのは好きだけど、それだけだとやっぱり視野が狭くなりがち。

  • デザイナー・エンジニア合同のアイデア出しミーティング

  • 経営層からビジョンや、P/Lを直接聞ける機会を増やす

  • BizDev・マーケティングとの定期レビュー

  • 小さくても売上やKPIの責任者の立場を自ら担う

    こうした場に積極的に飛び込むことで、「デザイナー×他職種」の新しいケミストリーが生まれるし、たとえば「デザイナーとBizDevが組むと、ビジネスモデルとUXの両面を素早く検証できる」「エンジニアと直接話すと、UIの発明が起きる」など、事業を推進するための突破口が見つかると思う。

事業解像度の上げ方はこの本をおすすめしています。


「デザインが融けている」組織の話

AI×ヘルスケアの例

僕が聞いた中で印象的だったのは、あるAI×ヘルスケアのスタートアップでは、CEOがデザイナー出身。

少人数のチームでPMやエンジニアも含め、毎週ユーザーインタビューを行っています。そこで得た知見をもとにサービスを微調整しつつ、「これをリリースしたらコストはどれくらいかかる? 売上見込みは?」と数字ベースで検証。

こうしてデザイナー視点×P/L感覚をうまく融合させているのが印象的だった。

IoT家電メーカーの例

別のIoT家電メーカーでは、インダストリアルデザイナー出身の人がPMも兼任。

「外観からUI、クラウド機能、さらに量産コストまでトータルに管理している」そうです。BizDev担当もすぐ隣に座っていて、「こういう機能を付けたらどれくらいの値段にする?」などを即相談していくスタイル。

結果、ユーザー目線で設計された家電がヒットし、リピート率も高いとのこと。


まとめ – デザインが融けるからこそ、新しい価値が生まれる

「デザイン=UIを作るだけ」の時代は終わったのかもしれない。

そして、デザイナーがP/Lや事業の成長に責任を持つようになると、企業にとってのデザインの価値は一気に高まる。

例えばPMやBizDev、エンジニアとの境界が薄れ、こうした動きが、今後ますます加速していくでしょう。

  • 複数の職種が、ユーザー体験を中心に一丸となる

  • PMやBizDev、エンジニアとの境界が薄れ、数字もUXも両立させる

  • 35歳以上のシニアデザイナーが経営やBIZ領域に進出して重責を担う

デザイナーを「ないがしろにしている」のではなく、必要なリソースやフェーズに合わせた投資判断をしている企業も多いのが現状で、そこにデザイナー側が積極的に関わり、「デザインはコストではなくケイパビリティ(能力)」である事を説得していくことが大切だと思う。

シニアデザイナーが経営やBiz領域に絡んで、直接的に事業貢献する未来像も、もう見え始めている。

デザイナーが組織全体に“溶け込んで”いけば、スタートアップはより柔軟でスピーディに、ユーザーにとって本当に価値あるプロダクトを生み出せるようになると思う。

結局、デザインが融けるというのは「みんなでユーザー価値と事業成長を高める」姿勢が組織に行き渡ることなんだと感じた。



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坪田 朋
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